大判例

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札幌高等裁判所 昭和59年(う)148号 判決

1 所論は,被告人には暴行ないし傷害の故意はなかったというが,関係各証拠によれば,(1) 被告人が,原判示の普通乗用自動車を運転して,本件喧嘩闘争の場から逃走しようとした際,本件衝突地点付近に3名位の抗争相手の組側の構成員がおり,被告人もその存在を認識し,そのまま発進すればこれらの者に衝突する危険があることを十分に知っていたこと,(2) そのため,被告人は当初バックで車を数メートル移動させたところ,相手側の大芦一家の構成員と思われる者からスコップ様のもので自車の後部をたたかれ,バックで逃走することを断念して前進に転じたこと,(3) 前進を開始した後,進路前方数メートルの位置に倒れている人影を発見し,毎時約5ないし10キロメートルの速度で接近して,被告人が加担していた組の徳永康二であることを知り,これを轢過することを避けるため,左に転把したところ,前方に大芦一家側の本件被害者を発見し,その際,同人が両手を広げて被告人車両の前方に立ちはだかる姿勢をとっていたのを認めたこと,(4) 被告人が被害者を発見した時の被告人車と同人との距離は約2.9メートルであるが,その際の被告人車の速度は毎時約5ないし10キロメートル程度であるから,被告人において被害者との衝突を回避しようとする意思を些かでも有していたならば,直ちに急停車の措置を講ずべきであり,かつ,講ずることができたと思われるのに,そのような措置に出ることなく,アクセルを踏み続けて,自車を被害者に衝突させたこと,(5) 更に,自車を被害者に衝突させた直後においても,被害者に対する加害をできるだけ回避しようとする意思を有していたならば,やはり直ちに前記同様の措置を講ずるのが当然であるのに,そのような措置に出ることなく,アクセルを踏み続け,被害者が車体の下敷きになり,後輪が空転し異常音を発するのを知りながら,路面上の痕跡からみて10数メートルにわたって,被害者を轢過し又は引きずり続けて,そのまま逃走したことが認められ,以上の事実に照らすと,被告人の行動の態様自体から,被害者に対する加害の故意をほぼ推認することができ,その他,被告人が検察官に対し,被害者との衝突前後の状況とその際の心理状態について詳細に自供し,原審第1回公判においても傷害の故意を認めていたことなどを総合すると,被告人は本件喧嘩闘争の場から原判示の自動車を運転して逃走するに際し,自車の前方に立ちはだかった被害者の身体に対する加害を避けようとする意思がなく,むしろ被害者に自車を衝突させこれを轢過するもやむを得ないとの意思のもとに運転を続けて自車を衝突させたものであり,被告人に傷害の故意があったことを認めるに十分である。

2 所論は,被告人が原審第3回公判において,前記のとおり,路上に倒れていた人影をみて左に転把した瞬間,前方約3メートルのところに被害者が立ちはだかっているのを発見し,びっくりしてしまい,反射的に目をつぶり,停止しようなどと考える余裕もなく,その直後,後輪が何かに乗り上がり,被害者をひいてしまったと思ったが,大芦一家の者らから逃れようという気持が先に立って運転を続けて立ち去った旨供述していることを指摘し,この供述などに照らすと,被告人には心理的に被害者との衝突を回避する措置を講ずる余裕はなく,暴行ないし傷害を加える意思があったなどとみることはできないというが,前記のとおり,被告人は,発進前から本件衝突地点付近に抗争相手の組の者ら数名がいて,不用意に発進するならば衝突の危険のあることを認識していたこと,被害者を発見した際の被告人車の速度が前記の程度であり,直ちに急停車し得る速度であったのに急停車の措置を講じていないこと,被害者を発見した際,前記公判供述によっても,被害者を「背の小さい,白い服を着て」,「両手を前に突き出し,立ちはだかるような格好をして」いたとか,同人との距離は大体3メートル位であったなどと,かなり正確に被害者の様子や距離関係を認識していたことなどに照らすと被害者との衝突を回避する措置を講じ得ないような心理状態にあったという被告人の公判供述は信用し難く,また,衝突の直前に,目をつぶったとか,抗争相手の組の者らから逃れようという気持が強く働いていたなどということも,被害者に対する傷害の故意と両立し得ない心理状態であるとみることもできず,その他前掲各証拠と対比すると,所論は採用できない。

被告人について傷害の故意を認めた原判決に所論の事実誤認があるとはいえない。論旨は理由がない。

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